我、拗ね者として生涯を閉ず
本田靖春の『我、拗ね者として生涯を閉ず』を読む。
左の”My Favorite Book”の欄にも簡単な紹介があるので、もし興味のある向きはクリックしてジャンプしていただきたい。
【本刊のタスキに書かれた紹介文】
「これを書き終えるまでは死なない、死ねない」
だが、最終回を残して、
心血を注いだ連載は絶筆となった。
讀賣社会部エース記者として名を馳せ、
独立後は『不当逮捕』『誘拐』などの名作を生んだ
孤高のジャーナリストは、
2004年12月4日、この世を去った。
植民地であった朝鮮半島での出生から、讀賣の社会部記者としての活動、そして讀賣退社後のフリーのジャーナリストとしての活動を振り返り、メディアとは何か、ジャーナリズムとは何か、人間がどう生きればいいのか、鋭いナイフの刃の様なキレの良い文章で読者に問いかけてくる。
が、何故彼の訴えがこれほどまでに身にしみてくるのか、それは真実を追究しようとする旺盛な意識、そしてその目標を達成するために愚直なまでに突き進んでいく行動力があったからこそである。
彼は昨年12月までに亡くなるまで、(糖尿病による)両足切断、右目失明、肝ガン、大腸ガンなど多数の病魔と闘う生活を送っている。その病魔に冒される原因の一つとなったのが、売血の実体を調べる取材に奔走した事だった。巻末の「編集後記」にも記載されているが、売血制度への疑問を記事にするために、彼の採った取材方法は「山谷(東京の有名なドヤ街)に長期間住み込み、自らも売血を行った上で実態調査をする」事だった。そして、採血の際に使い回しの注射針からC型肝炎に感染してしまう。
体験記というのはベーシックな取材方法ではあるが、自らの危険を顧みずに手段を遂行していく事ができる記者がどれだけいるだろうか。この記事がキッカケとなり献血制度へと移行していったのであるが、同時に結果として彼の記者生命を奪うキッカケにもなってしまったのは痛恨の極みである。
また彼は、自分が在籍していた「讀賣とその社会部」にも痛烈な批判を繰り返す。事業欲旺盛な正力松太郎社主、そして現在の中心であるナベツネこと渡辺恒雄に対しても容赦ない批判を繰り返す。「社会の公器であるという新聞の理想とかけ離れて、紙面を私物化し事業の宣伝に使う事」に対しての批判を繰り返す。自分の立場と生活を考えれば社の方針に従順になる事も仕方がないのだが、彼は一切それをせずに社内批判を繰り返した。
上記に代表されるような彼の記者としての行動は、「社会の為に一つでも良いから尽くす事ができないだろうか」という、新聞社に入社した当時の初志を貫き通そうとした事により生み出されたものである。
こうやって僕が書いてしまうと気恥ずかしい文章になってしまうが、やはり戦前から戦後に渡ってきた人の想いは、本田の初志と同様な事を思う向きが大勢だったのではなかろうか。
しかし、その初志も、多くの人間にとっては経済の発展と共に有名無実化してきてしまった。その事に対しても、本田は強烈な批判、問いかけを繰り返していく。
絶筆となったこの随筆集は、ジャーナリズムのみならず、僕ら一般の人間にも「何を以て生きるのか」という基本的な問いかけを畳みかける様にしてくる。その愚直なまでに信念を貫こうとする態度に、心が揺さぶられない向きはいないのではないだろうか。
果たして、僕らは本田の様にここまで信念を貫き通せるだろうか。あるいは自分なりの初志を貫徹する事ができるのだろうか。それを振り返るためには、本著は最適な一冊である。
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コメント
TBして頂き、ありがとうございました。
本当に、本田氏の何事にも徹底して事件の本質を目指して、追求する姿勢には頭が下がります。
こんな本は少しでも多くの人に読んでほしいものです(講談社とは関係ありません)
投稿: くれなゐ生 | 2005.05.30 22:59
くれなゐ生様>
コメントありがとうございました。
あとで、またこの本について書きますが、
読み直すといろんな感慨が浮かび上がってきます。
僕は少しだけこういう世界をかじった人間ですが、
やはり現場にいる記者にはこういう気概を持って欲しい。
自分が歩き回る事で得る事も多いでしょうし、
批判だけではなく慈愛も身につけていくためには
本田の様な精神が必要なのではと考えています。
投稿: kikka(Mac屋の店員) | 2005.05.30 23:06
TBありがとうございました。
今後ともよろしくお願いします。
投稿: ニュースな日々 | 2005.06.01 01:30
ニュースな日々様>
JR西日本の事故以来、2度目になりますかね。
こちらこそ、トラバありがとうございました。
何となくニュースな日々さんと琴線の触れ方が同じ気がします。
同士を得た感じで、微笑ましく思っています。
投稿: kikka(Mac屋の店員) | 2005.06.01 01:39